Ceret France
セレの街のセヴラックの記念碑 (モニュメントの真ん中あたりの緑色の円盤にセヴラックのポートレートがある。マノロ作)

セヴラックの最晩年のピアノ曲                                                         

「休暇の日々」第2集

1.ショパンの泉
2.鳩たちの水盤 
3.二人の騎兵 

*2曲目「鳩たちの水盤」の途中から彼の友人のピアニスト、作曲家、教育家でもあったブランシュ・セルヴァにより補完されました。

「休暇の日々」第2集は18世紀クープランやラモーなどのヴェルサイユ楽派(フランス・バロック)のスタイルが顕著に用いられています。

第1曲 「ショパンの泉」

 この曲は大きな3部形式から成っています。
 曲の冒頭、セヴラックがよく用いる朗誦=レシタティーボ部は、ショパンを彷彿とさせるような華麗な始まりです。
 続くワルツの冒頭フレーズで、「 ’」でフレーズをせきとめ、ふっと緩めるようなやり方は、洒脱。
 彼のピアノ曲「夾竹桃のもとで」の中で、彼と親しかった作曲家たちシャルル・ボルドー(1862-1909年 )やシャブリエ(1841年- 1894年)、ダカン(1694- 1772年)が登場するように、ここではショパンのピアノ曲、たとえばエチュード作品25の2番、作品10の9番、12番「革命」・・・を思わせる断片が現れます。
 ショパンの万華鏡を見ているようでも、音楽はまぎれもなくセヴラックの香りが立ち込めています。
 曲のなかで”南仏ピレネーの風”が吹いてくるような彼独特のメロディーが聴かれ、私たちは戸外へ解き放たれるような気分になるのはもちろんのこと、彼がよく用いる書法の一つ、フレーズの末尾に余韻が与えられるフレーズ構成、巧みな転調、オーバーラップの効果などの作曲テクニック上の工夫も見られる力作であると思います。
 そして同じ部分が繰り返されるときに即興的に装飾が加えられ、少しずつ変奏されるところはショパンにも見られる書法でもあり、18世紀フランス・バロックのクラヴサン音楽をも連想させられます。

 第2曲 鳩たちの水盤

 まずは、装飾音の使い方などからクラヴサン音楽を思い出します。ラモーの鳥のさえずりや、フランソワ・クープランの第14組曲の恋の鶯、おろおろ声のびひわ、勝ち誇ったうぐいす・・・など、宮廷の人間模様を鳥にたとえて描写したクープランに対し、セヴラックの描写の対象は、彼の身近な風景の一こまなのでしょうか。私はリヨン留学中に、公園で砂浴びする鳩たちの、生き生きと、もの言いたげな、くりくりとした目を思い出しました。セヴラックは巧みな音使いで、鳩たちのやや低くこもった鳴き声、そのにぎにぎしさなどを感じさせ、さらにはのどかで平和な暮らしの風景が見えてくるような気もします。題材は身近なものであっても、音楽は、輝きのある珠玉の作品と言って良いと思います。途中からは、ブランシュ・セルヴァによる完結となっています。

 第3曲 2人の騎兵

 セヴラックは第一次世界大戦の際に従軍し、それが彼の健康をさらに蝕んだと言われています。この曲もブランシュ・セルヴァにより完結されています。付点のリズムとカノン風な掛け合いが、2人の負傷兵の足を引きずるような動きを想像させられ、セヴラックの他のピアノ曲にもしばし登場するように、途中には軍隊ラッパも聞こえてきます。彼に残された時間は少なく、命の炎は消えてしまったことは残念でなりません。しかし、この曲からも、当時の様子が伝わってくるように思うのは気のせいでしょうか。
 初期の作品からよく知った親友ブランシュ・セルヴァは、愛情を持って曲引き継ぎ完結させています。