セヴラックのピアノとヴァイオリンのための曲
ミニョネタ
Minyoneta
副題 Souvenir de Figueras(フィゲラスの思い出)
「ブランシュがあの時のように、サルダーナを踊りだしそうなのが目に浮かぶよ・・・」
1911年6月11日、セヴラックはブランシュ・セルヴァにこう書き送った。
彼は少なからずサルダーナ(カタルーニャの踊り)を作品中に取り入れているが、この踊りのことを ”高貴で、造形美をもち、アテネ風な” と特筆している。
サルダーナの踊りのルーツは確かにギリシャに起する。
副題のフィゲラスはバルセロナから北へ2時間ほど行ったカタルーニャの街の名前で、ダリ美術館があることで有名です。
セヴラックは1907年に師のシャルル・ボードとここを訪れた。
シャルル・ボードはスコラ・カントルム音楽院創設者でドビュッシーと同年齢。
そもそもこの音楽学校は、フランス諸国を廻って伝統的な音楽を採集し、行き着く先グレゴリオ聖歌へ帰することを推奨していた。
世界的にも、グリーグ、バルトーク、シベリウス、ストラヴィンスキー・・・多くの作曲家らが民族の旋律やリズムに創作のエッセンスを求める潮流があったが、セヴラックは民謡をこれみよがしに使いたくないと論じていた。踊りや、雰囲気など、セヴラックの音楽の中に凝縮されているものは、時代を超えて想像をかきたてられる。
<曲の構成>
Tempo di sardana
1919年作曲
セバスチャン・シャプリエによるオーケストラ編曲版がある。
3部形式+コーダ
二つの旋律(第1主題と第二主題)をもつち、 それらはカタルーニャの民謡でもないが、独特なキャラクターを持っている。
シンコペーション、支配的な性格をおびた三連符、引き締まった提示部から始まる。
続く中間部の第二テーマを、ヴァイオリンが、やや思わせぶりな足取りで魅惑的に誘い込み、
ピアノとの粋な掛け合い場面となる。
この曲の長きにわたって執拗に繰り返されるラの音、またイ短調のトニックT度の弾き方が、この曲の性格を作る上で重要だ。
そして、いくぶん強迫じみたリズム、突き刺すようなアカチャトゥーラの和音は、誇らしげに、乾いた強さをもって何かを投影する。
びしっと決める二オクターヴの三連符はスペイン的で呪文のよう、そこには旋回の眩暈、舞踏の恍惚がある。
最後に二つの旋律(第1主題と第二主題)の断片がころがり、懇願するような三連符の後、踊りは終わり、楽器も鳴り止みおぼろげな記憶 は消沈し、ミニョネッタは夢のなかに消えていく。
ミニョネタとは「かわいらしい」という意味合いを持つが、短いけれども魅惑が凝縮された1曲。
セヴラックはスペイン的なリズムや旋律で、その土地の深く秘められた性質をじかに表現している。