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セヴラックゆかりの地への旅(2023年編)

由美子 深尾

パリから南仏、セルダーニャ地方へフランス縦断の旅は片道1200キロ~

 

セヴラックがアルベニスの娘、ラウラに宛てた手紙を読むうちに、ピレネー山脈の麓に広がるセルダーニャ地方へ旅に出たくなった。なんでも避暑には最高の場所らしい。北のパリから南へ向かうと、空の色は、太陽の光は、人々は・・・どんな風に変化していくのだろう。2023年6月、雲の多い灰色の街、パリから地中海・カタルーニャ地方への旅に出た。

 

リモージュ、そして南仏ケルシー地方のロカマドゥール

 

途中、陶器で有名なリモージュとその周辺にある中世のからの可愛らしい町、マルテルに立ち寄り、南仏ケルシー地方のロカマドゥールで一泊する。ここは、プーランクがカトリックに回心し、《黒い聖母への連禱Litanies à la Vierge Noire》を書いた場所としても知られている。

断崖絶壁にへばりつくよう広がるこの町にはフランスで最も古い聖堂があり、その昔、聖アマドゥールが当地の黒い木で彫った黒マリア像が祀られている。霊験あらたかなこの地で、聖王ルイは十字軍遠征の際に戦勝を祈祷したという。聖アマドゥールの遺骸を納めた地下礼拝堂とサン・ソヴール・バジリカ聖堂Basilique Saint-Sauveurは、サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路の一部としてユネスコの世界遺産に登録されている。セヴラックがこの辺りの特産、“ケルシーのチーズ売り”の真似をして歌った、というエピソードも思い出す。

 

サン=フェリックス=ロラゲ

 

翌日はロカマドゥールから車で3時間余り、セヴラックの生家のある、南仏サン=フェリックス=ロラゲに到着。ラングドックの平原に入ると、ポプラ並木の両側にはひまわり畑が見えてくる。木々の葉が風にそよぐと、オーケストラが鳴っているように聞こえた。サン=フェリックス=ロラゲの大地は広く、穏やかで、人も、動物たちも、みなが大地に抱き取られるような安心感に包まれる。道中、車のタイヤがパンクしてあっちこっちの修理工場を転々として疲れた身体と心が一挙に平安を取り戻す。


遠景からは、丘陵に小舟が浮かぶようにも見えるこの村の一端には、領主、ド・サン・フェリックス(ジローナの司教)が建設した城と庭園が残されている。1035年にはすでにその名をとどめるというが、城は十字軍遠征で破壊され、その後再建されている。その庭園からは素晴らしいパノラマが広がり、遠くにはピレネー山脈も見える。これから目指すセルダーニャ地方もうっすらとあちらの方向に!180㎞の道のりである。車で4時間はかからないであろう。


セルダーニャ地方

フランスとスペインの国境地帯、ラトゥール・ド・キャロルを通過し、セルダーニャ地方に古くから栄えるプッチャルダの町に到着する。メインストリートはフランス、スペイン、南米からの観光客で大変賑わい、フランス語、スペイン語そして、カタルーニャ語が飛び交っていた。町から少し離れたところには瀟洒なホテルと湖があり、人々はのんびりと湖畔を散歩している。

ここは標高1200メートルの高原にあり、目の前には雄大なピレネー山脈が連なる。一年を通して晴天が多い風光明媚な場所で、きらきらと輝く牧草地帯が続き、セヴラックはここを、「ウェルギリウスの『農耕詩』の舞台のようだ」と例えている。なだらかな山々の中腹にはロマネスク建築による教会が点在する。太陽光線が強く、紺碧の空、緑の草原、紫色の稜線には残雪が銀色に光っている。鮮やかな色彩に目も眩むほど。この色彩感はピアノのための絵画的組曲《セルダーニャ》の音楽のなかに映し出されているなあ~。

プッチャルダから20分くらい車で走るとリィビアに到着する。町の中心にある教会は、以前は城と一体になっていたそうだ。教会内部には、さまざまな時代のキリスト像や絵画が飾られている。その中にひときわ鄙びた、中世13世紀に作られたキリスト像が祀られている。セヴラックはこのキリスト像からインスピレーションを得て、〈リィビアのキリスト像の前のらば曳きたち〉(セルダーニャ第4曲)を作曲したという。ギヨー先生は、2023年7月にお会いした時にも強調されていた。セヴラックはかつて、スペインから到着した、らば曳きたちがこのキリスト像の前にぬかずいて、熱烈な祈りを捧げる姿を見て、そこに友、アルベニスの最期の光景を重ねて見て、そのエモーションをこの曲に投入したのではないか~というのは私の推理。これについては拙著に詳しいので、よろしかったらお読みください。

リィビアの教会の向かい側には、市役所と博物館を兼ねた赤とグレーのかわいらしい色使いの石造りの建物 Casa de la Vila がある。その隣にはヨーロッパで最古の薬局だった建物が現存する。地元の人々は質実剛健な感じだが、とても親切である。町は観光客で賑わっていたが、リィビアの教会のキリスト像のことを知る人はほとんどいないのだろうな・・・とフランス人の友人がつぶやいた。

セヴラックの音楽の中には人々の歴史や思いがしっかりと刻み込まれているところも、独特の味わいに加味しているのかもしれません。


 肉料理 レア編


リッビアの街中でお昼と食べるところを探して歩き回っていたが、レストランはどこも満員で、あきらめかけていたその時に、簡素なビストロを見つけて腰を下ろすことが出来た。店のたたずまいからは想像できないほど美味しい料理とワインにありつくことが出来た。

はじめに山盛りのオリーヴが通され、あれこれ注文したが、特にスパイシーな味付けの“豚の耳とジャガイモの料理”は絶品であった。ニンニクの効いたピリ辛味のお耳が、ジャガイモのガレットの上に綺麗に盛り付けられている。手を合わせて有難く頂いた。この辺りは畜産が盛んで、家畜の命は無駄なく食されるのだという。草原には牛や馬、ロバなどが放し飼いになっていた。人懐こくて、こちらにすり寄ってくる。

セルダーニャ地方は、ヨーロッパユニオンの動植物特別遺産区域(2000年から)の一部となり、雄大な大自然のもとで夏はアウトドアのスポーツ、冬にはスキーを楽しむことが出来るという。明日はピレネーを越えて、夢の町バルセロナへ入る。

 

 

 

 

 

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