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キュビスムとセヴラック

  • 由美子 深尾
  • 8月1日
  • 読了時間: 3分

~ミロ展から触発されて~

上野の東京都美術館で開催された「ミロ展」は、画家・ジュアン・ミロ(1893-1983)の初期から晩年までの作品を一同に集めた大回顧展。

スペイン北東部のカタルーニャ生まれ、パリやアメリカ合衆国で活躍した国際的な画家ミロの原点には、生まれ故郷のモンロッチ、バルセロナ、マジョルカ島の自然がある。常に創作のインスピレーションを得ていたと本人が語っている。

第一次世界大戦、スペイン内戦、第二次世界大戦をくぐり抜け90歳まで生きたミロは、ミロ🟰ミロワール(フランス語で鏡)といわれ、その作品には時代が写し出されている。

彼はセザンヌからの影響、キュビスム、フォーブ、抽象画、シュールレアリズム、アメリカ現代アートなどからの影響を突き抜けて独自の語法を発明し、時代における芸術家の役割を表現する。思想家にして、詩人になりたいと自称する彼は、「芸術家とは他の人々が沈黙する中で何かを伝えるために声をあげる者で、その声は無駄なものではなく、人々を助けるものである事を証明する義務を負うものである」という言葉を残し、表現の場を持てない人の声も代弁しようと努力した人であるという。凄いな!人類がたどってきた歴史を、そのエッセンスを、一枚一枚の絵が代弁していた。芸術家のできることを再確認した。

それは例えば、作品《スペインを救え》。1936年スペイン内戦の時、ファシスト政権に対する共和国側の支援金を集めるために、ミロは切手のデザイン《スペインを救え》を制作した。この時の切手は発売には至らなかったが、カタルーニャの文化と言語を守ろうとしたミロは、《フランコの夢と嘘》を制作したピカソは生涯の友となったという。

スペイン内戦は、音楽家セヴラックが亡くなってからなのだが、彼のゆかりの地を辿る旅でそれを身近に感じる経験をした。ピレネー山脈を望む、フランスとスペインの境の町プッチャルダPuigcerdaを訪れたときには、戦争で破壊された教会の傷跡がそのままに残されていた。そこは観光案内所になっていて、後の世の人誰もがそこから衝撃を受けるのではないだろうか。


話をもとにもどすが、ミロの作品に共通して見られる記号や象形文字風の形象が、モチーフとなって彼の思想を表現している。そんな作品を連続して見ていくと、シンプルでインパクトが強く、メッセージが伝わってくる。後に残る衝撃。ミロが用いる原色は、彼にとっての原風景、地中海沿いのモンロッチ(バルセロナの少し南)の自然から来ているのかもしれない。地中海の色鮮やかさを彷仏とさせる。

ところで面白いことに、セヴラックの《夾竹桃の下で》と言う曲があるが、短い曲の集まった組曲となっている。

作曲家自身が言っているのだが、地中海のある祭りを描いているそうだが、舞台上に次々と登場する場面をいろんな角度から表現しているように思われる。ミロ風のキュビスムの作品を見ていると、《夾竹桃の下で》はセヴラックなりのキュビスムによる表現なのではないかなと、長年モヤモヤしていた思いに合点が行った。

セヴラック自身、水彩画を描いた。父親はモネと親しく姉も画家。セヴラックはセザンヌを尊敬しルドンなど画家達との親交も篤く、ピカソとも親しかった。ピカソが描いたセヴラックの肖像画が2枚あって、そのうち1つはキュビスムによるもの。ピカソがブラックとキュビスムを打ち立てたのは、セヴラックの住む南仏セレの町で、キュビスムのメッカとも言われた。なぜピカソがここに来たかというと、彫刻家マノロ(1872-1945)の誘いに応じたから。マノロこそセヴラックの親友でセレに住む事をセヴラックに勧めた人物で、カタルーニャに出自をもつ。セレは静かでシックな町。物価も安く住みやすい。山から吹き下ろす風が涼しく日本で言えば、軽井沢のようには大きく観光化されていないが素敵な街。1912年頃には、ピカソ、ブラック、キスリング、マックス・ジャコブ…らがセレに集まってきた。(続く)


 
 
 

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